5AC HACKING
連続写真の積層した紙を彫刻することで知られるアーティストデュオ、Nerholが創り出したのは、カンバスを用いてハッキングした「Canvas (Nusa)」です。カンバスの起源を辿って麻の紙に立ち返った二人は、職人の協力を得て、貴重な大麻(おおあさ)の繊維で紙を漉き、その紙を細切りし、紙を撚って糸にし、それを織機で織り100%麻の紙のカンバスをつくりました。この気が遠くなるほど手間のかかる行為は彼らにとって積層そのものと言えます。平織りもしくはジャカード織りの使い分けで表情が変わるカンバスの表面を穴が開くほど擦り、削りとって、そこに牛の膠を塗り重ねています。表面でキラキラ光る膠と、荒く織られたカンバスを通して、「5AC」バッグの輪郭や素材が立ち現れてきます。カンバスの網目状に映り込む奥の空間、その空間の中に「5AC」を配置することで、バッグと作品の概念を重ね合わせます。
日常で目にした情景を具現化する大竹は、木版画を主な作品としています。作品制作だけでなく、本の挿画やファッションテキスタイルにも作品を提供する彼女が手掛けた「HACKED PATCHED」では、頭の中がハッキングされ出現したイメージが継ぎ接ぎされ増殖していく様子を表現。ひとつのアイテムの中に異なるピースを融合させ、その機能やストーリーの記憶を呼び起こし新たな価値を見いだすメゾンのコード「メモリー・オブ」とも通ずる脳内パッチワークは、見る人の記憶をも誘起させる作品です。
ドローイングを中心に様々な表現を手掛けるBIEN。「Visible observation for 5AC」には、複数のMDF彫刻と「5AC」マイクロが用いられました。1つの視点から正面性をもって鑑賞することを想定した絵画や映像は、異なる角度から見ることでそのモノが内包しているイマジナリーな見方から外れ、物質としての絵の具、キャンバスの裏地などの現実的な側面を見ることができます。つまり、イメージが付与された物質と、そうではないただの物質としてある物の境界が見えるのです。それは、物事が持つ様々な側面を私たちは一様には捉えきることができないことも表しています。「5AC」というバッグが様々なサイズで展開されてきたことにより、小さいものはもはやアクセサリーとしての用途が強調され、バッグという形を保ちながらも、その既存の概念を壊しながら揺れ動く様が彼の彫刻のシリーズと重なります。通常は「バッグ」として認識している「5AC」が、その名称を外してしまえば彫刻作品と同様に実は一義的なジャンルで分けられない、何か得体の知れない物であり、異物としてそこに再び現れることを目的としています。
日本国内で布づくりを行う須藤玲子率いるテキスタイルデザインスタジオNUNO と、林登志也と安藤北斗が設立したコンテンポラリーデザインスタジオwe+が2022年12月より始動した協働プロジェクト、NUNO | we+。彼らが手掛けた「回転するキューブ - Inverse Equation」は、四角い刺繍片がテキスタイルの一部となり、ゆらゆら動くNUNOの刺繍布「スイング四角」の制作工程を3つのキューブで表現します。本来、人目には触れないプロセスを主役に引き立て、「5AC」を包み込むことで、ベーシックなコードを反転させるメゾン マルジェラの哲学をトレースします。キューブは閉じられた空間でありながら、回転することで無限に広がる空間へと人々を誘います。
展示期間:10月3日(木)~17日(木)